デザイナーがどのような過程を経て作品を作り上げるのか?
そんな素朴な疑問をステップを踏んで視覚化してくれているのが、前田高志さんの著書「鬼フィードバック デザインのチカラは”ダメ出し”で育つ」です。デザインに関心がある人だけでなく、デザイナーにお仕事を依頼したい人にも刺激を与える一冊になっています。
鬼フィードバックとは、相手のメンタルをボロボロにするような助言ではなく、膨大な回数のコミュニケーションの往復を通じて、良いデザインに昇華させていくもの。「膨大な回数」が「鬼」として形容されているのです。
文字がビッシリ...という本ではありませんが、前田高志さんとデザイナーさんの鬼フィードバックのやり取り、それに基づいたデザイナーさんの感想などを噛みしめながら読んでいると、サラッと読み終えることはできませんでした。読む人の知識や経験、立場などによって、何度読んでも新しい発見ができ、学びが深まる良書です。
デザイナーさんにフィードバックを与える前田高志さんの言葉選びや気持ちの伝え方に興味関心が湧いてきました。この記事では、「鬼フィードバック」でオープンにされたコミュニケーションのやり取りに注目した学びをお伝えします。
私が手にしている前田高志氏の著書『鬼フィードバック デザインのチカラは”ダメ出し”で育つ』は、株式会社エムディエヌコーポレーションのご厚意でご献本いただいたものです。
すばらしい本との出会いと機会をいただきましたことを、心から感謝申し上げます。
鬼フィードバックから学ぶ、教える人と学ぶ人の心構え3選

「鬼フィードバック」は、バナー、名刺、チラシ、プレゼン資料、ポスター、POP、サムネイル、企業ロゴといったデザイン作品を作り上げていく過程が丸ごと詰め込まれている書籍です。
それぞれのジャンルを別のデザイナーさんが担当しています。デザイナーさんの個性も千差万別。そこにディレクターとして前田高志さんの鬼フィードバックがあり、作品完成の道を辿っていきます。
個性あふれるデザイナーさんと魅力的で超実力派の前田さんのやり取りからは、デザインの分野に捕らわれないコミュニケーションに対する学び要素も満載です。
私はデザインについてはド素人、でもデザインに興味を持っている一人としてジックリと読み込むことに。そこで感じたのは、デザインを作り上げる過程でのフィードバックにおける人間関係の重要性でした。
そこで、心に残った「教える人と学ぶ人の心構え」を3つセレクトしてご紹介します。デザインの格言的なものも含まれていますよ!
経験値を積む最短ルートが「作る ⇒ フィードバック」の繰り返しなんだって。
これって指導する側・受ける側双方にとって、とっても大事な前提条件だよね。
ものすごい説得力を感じたよ!
①努力に報いる一言!

イベント集客用のバナーを担当されたデザイナーさんは、初回から複数案を提示するタイプ。前田さんの鬼フィーにより、その後も熱心に改善を重ねる熱意を持たれた方です。
どのような方向性が最善なのかを探る過程は、想像するに必死だったはず。
そんな努力家さんに前田さんがかけたのが、次の言葉です。
いろんな方向性作ってくれたから、今の方向に確信を持てた!
出典:『鬼フィードバック デザインのチカラは”ダメ出し”で育つ』
前田高志著 35ページ エムディエヌコーポレーション
これで方向性が決まり、さらに完成に向けた手直しが続きます。
とはいえ、こんな言葉をかけてもらえたら、それまでの努力が報われて、さらにやる気が溢れてきそうです。ある意味、とっても嬉しい褒め言葉。
ですが...人を褒めるのって難しくないですか?仕事の人間関係だけでなく、家族に対してもなかなか褒めることに抵抗がある私。相手が小さな子供なら別なのですが。
さりげなく褒める言葉を言えるようになりたい!と感じる場面でした。
今日からでも”褒める”言葉を使っていきたいところだね。
②業界の常識を的確に伝える!

チラシ作成にチャレンジしたデザイナーさんは、しっかりと目的と役割をイメージしていました。
そんなデザイナーさんに前田さんは「世界観(ビジュアルの法律)」について伝えています。それが次の言葉です。
(省略)
同じ世界は同じ法律、ルールを設けることで世界ができる。
(省略)
裏面も、このチラシの世界の文字ルールの法律で見直してみて!出典:『鬼フィードバック デザインのチカラは”ダメ出し”で育つ』
前田高志著 91ページ エムディエヌコーポレーション
これっておそらくデザインの世界の常識なんだと思います。何となくやれていることと、意識してやっていることの差を明確にしてくれる的確なアドバイスです。
こんな風に教えてもらえたら、一生心に刻み込まれると思います。
③変化を付けるフィードバック!

誰に対しても同じ接し方をすることは芯が通っていてステキです。ですがその反面、苦手意識を持たれてしまうと厄介なことに。
やはり、相手の人柄や置かれている状況(時間的余裕など)を考慮したフィードバックの方が効果がありそうです。
前田高志さんによれば、デザインの提示の仕方だけをみても個人差があるというのです。
- 複数の案を提示して、ピンとくるモノを選ばせる人。
- 提示前に厳選して、渾身の案を持ってくる人。
デザイナーの性格や経験値には違いがあって当然です。
前田さんのフィードバックは、内容自体にブレはありません。ただし、言葉のチョイスには配慮しているとのこと。
- 時間的余裕がある場合など ⇒ デザイナーさんにもう少し考えてもらうフィードバックをすることあり。
- 煮詰まっている(切羽詰まっている)場合 ⇒ 丁寧なフィードバックをすることもある。
フィードバックの強弱は、相手のキャラクターやスケジュールを踏まえてバランスを取っているそうです。
フィードバックを繰り返して作り上げていくようなお仕事では、指示を受ける側も謙虚な姿勢やその選択をした理由を明確にしておく必要があります。その都度反発していては作業が進まないかもしれないし、「どうしてこうしたの?」と聞かれて、返答できないと困りますよね。
人を指導するスタイルにも個人差があるとは思いますが、鬼フィードバックを読んでいて感じたのは「前田さんに教わってみたい」という気持ちでした。
おそらく鬼フィードバックでチャレンジされているデザイナーさんたちも、前田さんの人柄に魅せられているのだと思います。
鬼フィードバックを読み終えた感想

デザインに携わる人って、こんなに大変な過程を経て作品を生み出すものなのか...
これが「鬼フィードバック」を読み終えた率直な感想でした。「絵画を鑑賞するのが好き」とか「イラストには自信がある」「デザインを学んでみたい!」というだけの気持ちでは、おそらく持ちこたえられないでしょう。
「鬼フィードバック」では、ディレクションをする前田さんとチャレンジしたデザイナーさんのやり取りから多くを感じ、学ぶことができました。
かつて、私自身がプログラマーという職業に就いたときに指導していただいた上司や先輩の方々のことを思い出しました。分野は違いますが、何も知らない状態で飛び込んだ世界で力を付けるために必死だったのです。コードを書いては添削をしていただく繰り返し。焦り、心が折れそうになったこともありましたが、何とか喰らいつこうとしていました。
著者である前田高志氏は、任天堂に勤められていた経歴の持ち主。そこでデザインを始めとする様々な経験値を積まれたのでしょう。それが、人の作品をフィードバックするチカラの一部になっていることは間違いないはずです。

そういえば私、前田高志さんの登壇するトークイベントに参加したことがあったんです。2020年12月3日に青山ブックセンターで開催された「”副業の失敗”いっぱいトーク」でのこと。染谷昌利さんのお話を聞きに行ったんですが、その対談相手が前田高志さんでした。とっても気さくで面白い方だと感じました。歯に衣着せぬお話しぶりで、時間を感じさせないほど楽しかったです。
「鬼フィードバック」からは、そんな前田高志さんの人柄もたっぷり感じられます。デザインの道にチャレンジしようとしている人、チャレンジし始めている人、チャレンジしない人にも学びとなる1冊です。
デザインの世界だけに限らず、この鬼フィードバックは人材育成の参考にもなりますよ!
- 人を育てる立場にある方(指導の匙加減)
- 人から指導を受ける立場の方(心構えとして)
まとめ
- デザイナーの制作過程がわかる本。
- フィードバックを繰り返すことの重要性に気付かされる。
- 人材育成の観点から読んでもおもしろい一冊。